一匹の猿がすくっと立った。
そして、360°回転した。
尻尾が大地に円を描いた。
猿はその円を見つめた。
そして人となった。
一人の男が大理石を削り、
人間の姿を作り出していた。
究極の姿を求めていくにつれて
形はますます失われ、
円球となった。
男は見つめたまま、動かなかった。
何を作ろうとしたのだろう。
一人の男が筆をとり、
紙の上に円を描いていた。
書けば書くほど円は形を崩していく。
やがて一本の線となっていた。
円を描こうとしていたのではなかったか。
一人の男が機械を使い、
完全に精密な金属球を作ろうとしていた。
しかし、精密さを求めれば求めるほど、
なぜか見た目には完全な円球ではないような気がしてしまう。
男にはなぜだかわからなかった。
元は猿だった男は、いまも果てしなく転生を繰り返し、
完全な円を生み出そうとしている。
この世に完全なものがあるのかと問いかけることに、
意味などないのだとしても、
人間を作ってきたのは、そういうものなのだとすれば。