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Shortest stories

妻の写真


妻の写真を毎日撮ってきた。朝、食卓で、真向かいに座る妻の顔だ。一日も欠かさずだ。そのかわり、一切他の写真は撮っていないし、撮らせていない。私が見ている妻しかこの世には存在してはならない。他の男の視線は存在してはならない。私の妻なのだから独占するのは当然の権利だろう。

 

その妻が昨日亡くなった。葬式の時に飾る写真を選ばなくてはならないらしい。息子や娘や親戚どもがひそひそ話している。ねえまだ選べないの?同じような写真並べて何やってるの?構図も何も全部変わんないじゃないない?だっていつもあそこで撮ってたんでしょ?変わるわけないじゃないの?どれも一緒でしょ?お葬式に間に合わなきゃどうすんのよ?早く決めさせてよ。

 

家族に罵倒されようが構わない。選べないものは選べない。どれ一つとして同じ写真はないんだ。毎日毎日違う思いで生きているんだ。その違いがそこに映ってるじゃないか。お前たちには見えちゃいないんだ。穏やかな日々の中にどれだけの波があり、妻は一日一日をどんな思いで乗り越えてきたのかを。一見変わらないものの中にこそドラマがあることを知っていれば選べるはずなどないはずだ。だから私はいまこの瞬間も、一枚の写真を選べないまま、ただ途方に暮れているのだ。お願いだ。ほっといてくれ。