彼はある男を殺してしまった。
しかし、彼は慌てなかった。
「緊急犯罪処理サービス（ECMS)です」と落ち着いた女性の声が応答し、相手と状況について簡潔に質問していく。
「質問は以上です。通話記録はこちらで削除します」
被害者のSNSや通話記録、住民登録情報などから交友関係、仕事関係を洗い出し、すり替え候補者を選定、GPSで所在地からアリバイを確認、銀行口座やクレジット情報から収支状況を調べたうえで最終的な犯人の候補者を決定（ここまで１分３０秒）、
すでに所在地確認と現場派遣指示を出していた捜査員に情報を伝達、捜査員はポータブル3Dプリンタで指紋シートを作成し、現場に到着後、凶器に指紋を残す（ここまで８分）、
監視カメラの映像は犯行時の映像の本人部分の動きをモーションキャプチャーし、候補者のデータをもとに３Ｄレンダリング、犯行前の背景映像と合成、犯行時間の映像と差し替えて登録（ここまで２５分）
「作業が契約に記された３０分以内に完了したことをご報告いたします。なお、その後の捜査の進展により捜査班からの妨害が認められた場合は、警察関係者のデータの操作も含めて最大限の対策を講じます。また、意図的であれ偶発的であれ、犯罪に巻き込まれないように事前に対象を処分する事前犯罪処理サービス（ＰＣＭＳ）へのアップグレードもあわせてご案内しております。プライスもそれなりにはなりますが、必ずやご満足いただけるものと思います。今回もECMSをご利用いただきありがとうございました」
