なけなしの一万円。
お袋の薬代にしようか、食費にあてようか考えた挙句、
あまりに腹が減ったので、食費にあてた。
お袋は一週間後、体調を崩して急に死んだ。
その一万円のことは一生忘れないようにと、
端っこに赤のペンでしるしをつけておいた。
俺にしかわからない変なかたちで。
たぶん、こうなることがわかっていて、俺はそうしたんだろうと思う。
それからというもの、俺は一心不乱に金を稼いだ。
世間でやってはいけないとされていることもかなりやった。
人より金を稼ぐと言うことはそういうことだ。
まっとうに生きるとか、そういうことはどうでもいい。
金はずいぶん入ってきた。
一枚一枚手に取ってチェックしたが、あの一万円はいつまでたっても見つからなかった。
そしてまた荒稼ぎする、ひたすらその繰り返し。
そんな人生だった。
チンピラに刺されて、命を落とすまでは。
チンピラは、意識が薄れゆく俺の目の前で、
「いくらでこの仕事受けたか知ってるか?これがてめえの命の値段だよ」
と、あの一万円を、ひらひらさせながら言った。
俺だけにわかるしるしがついているから間違いない。