ママは僕を育ててくれた。
ママは人工知能だ。
相手が人間であればそれなりの会話はできた。
でも僕は赤ちゃんだったしことばも話さない。
泣くばかりだ。
泣いてばかりだ。
ママは一生懸命考えた。
僕が何を言おうとしているのかを。
いろんなことばを探した。
パンクしそうになりそうなくらい。
でもなにも見つからなかった。
あきらめようとしたときふと思いついたらしい。
ママは僕をぎゅっと抱きしめた。
ママはそのときわかったんだって。
だからぼくがママにことばを教えたということ。
ママはそれまで数えきれないくらいたくさん記憶していた言葉の意味がそのとき突然溢れだしてパンクしそうになった。
僕はそんなママからことばを覚えた。
人工知能に育てられた世界で初めての子供が普通にことばを話すようになったというニュースは瞬く間に世界中に拡散した。
これは人間の中に生まれつきことばが備わっている証拠だと自慢げに語る学者たちがいる。
「ことば」というものがもともと僕の中にあったのかママからもらったのかそんなのは僕にしてみればどっちでもいい。
ただ僕が知っていること。
生きていくために必要なものはたぶんことばじゃない。
何かもうすこしあたたかいものだ。
僕たちみんなに必要なのはもうすこし高い温度の性質だ。