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大江戸線麻布十番駅発ブエノスアイレス経由国立競技場行き

都営大江戸線麻布十番駅。
国立競技場に行きたかったのだが、変なアナウンスが聞こえる。
「一度入ったら入り口からは出られません。階段では地上に出られませんのでご注意ください」
後戻りする気もなく、特に気にせず、地下深く潜るエスカレーターに乗るのだが、
どこまで行っても次のエスカレーターがある。
延々と続く。数えてないけど。
急に上りのエスカレーターが現れた。地上に近い証拠だ。
ブエノスアイレス地下鉄B線だ。
Pasteur駅。細菌学者のパスツールと関係があるのか?
「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」と言った彼の祖国はフランスだ。
しかしここは日本の裏側のアルゼンチンだ。
国境を越えていると言えば越えているし、越えていないと言えば越えた覚えはない。
スペイン語でも地下鉄はMetroだ。しかしここでは方言でSubteという。
スペインよりも先にブエノスアイレスに地下鉄ができたからだ。その誇りだ。
B線には懐かしい営団地下鉄の車両がいまも走っている。
60年前、ロンドンバスを真似した真っ赤な車両が日本中の話題をさらった。
そして今世紀、はるばる船で地球の裏側にまで運ばれ、地下を走っている。
ここで作れなかったものかと考えながら、車内に乗り込む。
日本語の非常通報ボタンの表示の上にスペイン語の表示のシールが貼ってある。強引だ。
路線図を見ると、Pasteur駅の次がCallalo駅、ペルーの首都リマ最大の港町と同じ名前だ。
その次がUruguay駅、ウルグアイ?ウルグアイと言えばサッカー選手のカヴァーニぐらいしか知らない。
そしてその次のFlorida駅を目指すことにする。とことん外国の地名にこだわっている。インターナショナルだ。
その近くのA線に9 de Julio「7月9日」という名の駅がある。「7月9日駅」。
ずいぶん思い切った名前だが、アルゼンチンの独立記念日が7月9日なのだ。地上には7月9日通りがある。
しかし地上には出ず、フロリダ駅でまた地下深くに潜るつもりだ。日本に戻らなければならない。
3駅乗ったからちょうどいい具合だろう。麻布十番から国立競技場駅まで3駅だから、ちょうど真裏のはずだ。
 
さて、ようやく反対側に戻ってきた。
しかしここはどこだ?よく読めない文字だ。
サナームヘラーキンチャート駅。タイの国立競技場駅だ。確かに国立競技場駅だが、タイだ。
日本が2006年ドイツワールドカップ本大会出場を決めたスタジアムだ。
無観客試合で日本が北朝鮮に勝った試合だ。
駅前には東急がある。TOKYU。やっぱりここも日本とつながっている。大江戸線インターナショナルだ。

そんなことはどうでもいい。この調子だと日本に帰れるのはいつになるのか。