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ビデオ判定国際委員会設立趣意書

 

映像による記録が可能になり、スポーツの世界は大きく変わりました。いわゆるビデオ判定です。審判の判断よりも機械のほうが信頼に足るとされたのです。スポーツの世界ではゲーム中に何度かビデオ判定を使う権利が双方のプレーヤーやチームに与えられます。その権利をいかにうまく使うが勝敗を分けることさえあります。

 

歴史も同じことです。いかに冷静な報道であっても、歴史家による記述であっても、書かれるものには主観が紛れ込みます。完全に客観的な記録は不可能です。であるにも関わらず、報道や、それに誘導された世論や、ネットに発信される一般市民の個別の声など、主語さえも明確でない、得体の知れないものによって、いつの間にか「現在」は「歴史」となっていくのです。

 

しかし、本来、現在に生きる我々が現在を客観的に判断することは不可能です。判断は後世に委ねるしかありません。後世の「歴史」が判断するために我々ができることは、そのための判断材料を残すことです。我々が思いつく限り最も客観的な材料は、映像です。冤罪を防ぐために取り調べのビデオ化が進められていることも同じ思想に基づくものであるのかもしれません。

 

そこで我々は、IT、放送、電機、セキュリティー、建設・都市開発、医療福祉に関連する国際的な企業の協力を得て、新たな組織を設立することを決断しました。我々は世界中で起きるあらゆる事件、事象を映像で記録します。詳細は公にすることはできませんが、一般に公開できないような映像までを含みます。監視カメラの映像も含まれます。国際的な諜報機関との非公式の協力関係もその前提となります。一般からの映像投稿も受け付けますが、そうしたケースでは、捏造でないか徹底して検証し、捏造の痕跡が認められなかったものをアーカイブします。そして北欧や中欧で、地下核シェルターとして使用されていたスペースに、かつてない規模の専用のデータセンターを設営します。

 

各国政府や警察組織、地下組織とは利害の共有も衝突もありうるでしょう。その結果、想像もできないほどの軋轢が生まれることでしょう。しかし、紛争解決のための客観的な判断に映像が重要な役割を果たしうることは、いずれ歴史が証明してくれることでしょう。

 

我々はフェアでありたいのです。歴史の勝者が恣意的に書いてきた、この世界の主観的な歴史の記述の積み重ねとその捏造による、実にいい加減なこの世界の姿に、客観的な輪郭を与えたいのです。そして最終的に、つまりこの世界が終焉を迎えるとき、誰が最後の審判を下すにせよ、その時に、可能な限り客観的な審判が下されるために必要な判断材料を提供したい。

 

神がすべてお見通しであることに疑いを挟むわけではないにせよ、人類の未来に、そしてその公正な結末に貢献したいという思いを共有するものが集い、ここにその設立を宣言します。