地球上の生物の歴史の痕跡がどこかにあるはずだ。
しかしあまりにもわからないことが多すぎる。
そうだ。私のDNAの記憶の中に、全ての歴史は受け継がれているのだ。
なのに、くだらない常識や、知性の限界が、記憶の復元を妨げているのだ。
では、発達した脳の部分を、取り除いていけばいい。
その効果はてきめんだった。
DNAに刻み込まれた記憶が溢れ出すように甦る。
白亜紀の地球の情景が目前に圧倒的なリアリティーをもって広がる。
当然だ。実際に恐竜だった時にその網膜に映った記憶なのだから。
そして生物が誕生したあとのすべての記憶を丁寧に甦らせた。
いつの間にか生命の誕生にまで遡っていた。
しかしその時、彼の脳はもちろんのこと、元の姿かたちは一切の痕跡を失い、一塊の細胞となっていた。
彼は見たものすべてを記す言語を手に入れるため、進化することにした。
それが人類になるための旅の始まりだった。
彼はジャングルの枝から手を離して地上に降り立ち、二本の足でサバンナを歩き始めた。