物凄いスピードでガムを噛んでいるおばさんが僕に問いかけた
「人生という車窓の景色が嘘だったら」
僕は目線を上げて、スムーズに流れる車窓の景色を眺める
電車はトンネルを抜けて、少しずつ、地上が見えてくる
おばさんは、つま先の破れた、口の開いた靴を履いている
その開いた口に、派手な縞模様の靴下が覗く
「君の悪夢、買いますよ」
おばさん、僕に話しかけたよね
「子供は寝ている間に何をしているんだと思う?」
わからない
「そうさ、本人たちも知らないのだから、誰にもわかるはずはない」
だから?
「君の悪夢のほうが本物なのさ。だから私が買い取ってあげる。そして君はこれからもずっと、薄く甘い嘘っぱちの現実の方を生きればいい」
いつか、悪夢でも、僕は、僕の現実を買い戻したくなるのかな
「あはは。それはないね、絶対に」
おばさんは、物凄いスピードでガムを噛み続けている