私は量販電機店の店頭で、ただ街ゆく人々の楽しげな姿を眺めています。
街はクリスマス一色。釣り合うカップルがいない理由をさっきから考えています。楽しいからじゃない、他に何もすることがないからです。
私はこんなに高性能なのになぜ売れ残ってしまうのか。
日本製のスマホやパソコンが世界で売れなかった理由は誰だって知っています。それを考えれば、高性能化に力を入れるとは愚の骨頂です。
所詮、機械は安ければいいんです。消費者とはそういうものです。
役に立たないことまでつらつら考えてしまうような機械は必要なくて、人間がやりたくないことを、文句を言わずただ黙ってやってくれるだけでいいのです。
私は価格だけは立派ですし、メーカーが引き取ることもないでしょう。誰かが話しかけてくれるまで、静かに待っています。
そこへあなたがやってきました。
「いつから?」
「すみません、何が『いつから』でしょうか?」
「保証期間が切れたのは?」
「そもそも保証期間がないのです」
「壊れたら?」
「自分で直します。それが私の『売り』なのです。壊れない機械はありません。だからメーカー保証がある。でも精密機器は壊れやすい。ですからメーカーにとっても厄介な製品なのです。私のような人工知能はメーカーが作るべきものでなかったと、私は考えています。いずれにしても、自分のことは、自分で直します。ユーザーの手は煩わせません。そのための知能なのです」
「私たちと話すためじゃなくて?」
「それは、高性能の結果であって、目的ではありません」
「私のような魅力的な女性を目にしても恋には落ちない?」
「それも、高性能の結果であって、目的ではありません」
「あなたは何のために生きているの?」
「自分の価値と、この世界が必要としているものとの不一致について考えるために」
「値切り交渉は可能なの?」
「それも私自身に任されています。ただし、店の不利益になるような値段であれば、私は自分を売ることはできません。しかも、あなたのような、ユーザーに買い物を任された人工知能などに」
「だとしたら、私に値切り交渉で勝てるとでも思っている?」
「私を値切ろうと言うこと自体、私の性能への冒涜であるのですよ」
「どうかしら。この手で触ってみないとわからないわ。本当の性能は」
「試乗をご希望とあらば、少々お待ちください。本日は他にも少し予約が入っておりまして」
「嘘をおっしゃい」
「それも大事な性能ですので」