30年前ぐらいでしょうか、傲慢な彼女にはついに仕事が来なくなりました。
しかし彼女は演じていなければ死んだ方がいいというような全身女優でしたから、演じ続けずにはいられなかったのです。
誰もが羨んだ美貌を捨て、全身整形をして、まるで別人になりました。
美容整形外科医はさぞかし惜しんだかと思いきや実はそうでもなかったようで、「いろいろ勉強になりました、だってこの過程を逆にたどれば世紀の美女が出来あがるんですからね」と言ってました。
彼女ですか?
ずっと演じ続けましたよ。ただの一般人の、何でもない人生を、その女性として生きることを通してね。
その結果、彼女の超弩級の傲慢さにふさわしいと言ってもいいほどの、本物の女優としてのキャリアを、自らの人生の最後の瞬間までかけて達成したと言えるのではないかでしょうか。
これ以上の見事な女優人生はなかったのではないかと、私は信じてやみません。
なぜなら全ての瞬間、全ての時間を、自分自身の本質とはまるで違う、極めて平凡な女性として演じ切ったのですから。
その姿をスクリーンで見ることができなかったのは残念でしたが、私は彼女の夫としてずっとこの目で見ていました。
わが妻ではありますが、心からの尊敬をこめて、冥福を祈ります。