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餅月姫の恩返し


昔あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんが田んぼで稲刈りをしていると、

女の子が熊に食べられそうになっていました。

優しいおじいさんは必死で熊にかじりつき、

女の子を助けて、慌てて走って家まで連れ帰りました。

女の子は何でもよく食べました。

歯がとてもしっかりしていたからです。

助けてもらったうえに

こんなに食べては申し訳ないと思った女の子は、

恩返しがしたいと、

おじいさんとおばあさんのために、

毎晩、奥の部屋にこもって何かをするようになりました。

おじいさんとおばあさんは、

「決して見ないでくださいね」と念を押されていたのですが、

どん!どん!っとあまりに大きな音が響くので、

我慢できなくなって、

ついつい奥の部屋をのぞいてしまいました。

すると、体の大部分がツルツルで、乳首が二つしかない奇妙な動物が、

何か大きなものを手に汗水流していました。

「あまりに暑くなったので毛皮を脱いでしまったのです。

実は私は月の住人ではなく、

空に浮かぶ地球から来た、人間というものです。

あなた方はせっかくお米があるのに、

お餅というものを知らないようですし、

きっと前歯だけしかなくても

お餅なら食べやすいかと思って、

お餅をついていたんです。

地球ではお正月に食べることが多いのだけれど、

こっちでは毎日食べてもいいのではないかしら。

私はもう正体が知られてしまったからには

地球に戻らなければなりませんが、

これからはみなさまでお餅をついてください」

そう言うと、毛皮を羽織ってぴょんぴょんと

外に飛び出していきました。

おじいさんとおばあさんも追いかけて外に出てみると、

空から銀色の不思議な船が降りてきました。

そして中から出てきたマシュマロのような

もこもこした不思議な外見の動物が、

うさぎの真似をしているかののように

ぴょんぴょん跳ね回っている姿に

おじいさんとおばあさんは仰天して

腰を抜かしてしまいました。

女の子は形見にどうぞと、

特殊繊維でできたうさぎの毛皮を

おじいさんとおばあさんに渡し、

かわりにそのマシュマロ服を身にまとって、

銀色の船に乗り込み、飛んで行ってしまいました。

それ以来、月のうさぎたちは餅つきを覚え、

餅つき姫へのお礼にと、

自分たちが楽しそうに餅をついている姿を、

月の表面に映すようになったとさ。

めでたしめでたし。