Wakeupalicedear!

Shortest stories

一度限りの手

 

見事な茶碗よのう。
見た目には山のようにしっかりしておるが、
持ってみると、思いのほか手に馴染む。
これがおぬしの最後の茶碗とは、誠に残念じゃ。
 
作りたいと願うても、もはや作ること、叶いませぬ。
その茶碗にすべて作り込めてしまいましたがゆえに。
 
すべてとは。
 
恥ずかしながら其れがし、思うような器が作れず、難渋しておりましたところ、
いつのまにやら手首に小さな切り傷がついておりまして、これは天のお告げかと。
両の掌を切り落とし、それをそのまま土に練り込め、焼き締めましてござりまする。
使うほどに手に馴染むことこそ、用の美の極みでござります。
 
手には手を、とは。天晴な覚悟じゃ。
 
しかしながら、この手は一度しか使えませぬ。
焼き物師として思い描くところは遙か先にござりますが、
まさか足で茶碗を作るわけにもいきますまい。
 
弟子に作らせればよかろう。
しかして、思い描くところとはいかに。
 
頭の骨を半分に割り、大茶碗を作ってみたいという望みはあれど、
それがしの頭で作ろうものなら、自ら命を絶たねばなりませぬ。
決して叶わぬ夢でござりまする。
 
では、誰の頭がよさそうかの。
円いほうがよいか、ゆがんだほうがよいか。
若くて分厚く丈夫なほうがよいか、
老いてひび割れ、もろく欠けたほうがよいか。
好みの頭を申せばよい。
ただ、わしの頭だけは勘弁してもらいたいものじゃ。
わしが茶を飲むことができんようになるからの。