Wakeupalicedear!

Shortest stories without stories.

生殖と進化

    -序章-  

時間を細かく分割していくと全体の相似形が現れる。しかし時間を分割しきれるはずがない、とすれば全体も分割できず、つまり全体も無限というかミクロとマクロは同じもの。瞬間は永遠に終わらない。ならば次の瞬間に移らなければいけないのはなぜか。空間的なことか。空間が動くからか。

時間が立体的に見えるのは裏のレイヤーで虚時間が同時に流れているからではないのか。それは例えば時間の終わりの方から逆に流れてくる時間と、こっちから流れていく時間がはちあう時に、バンって、ふわってなるみたいな。台風の時に海から逆流してきたバックウォーターが上流からの奔流とぶつかって持ち上がって宙に浮く。動いてるんだけど止まっている。そういう時間。

時間が進んでいるように感じることはなくて。ただ止まってないことは感じている。ということは何もなかったところに時間ができていくのではなく、すでにあったところをなぞっているだけなのかな。音楽というものは、次に来る音の予感を満たしていくものであって、そこには聞こえるべき音、来るべき道がうっすらと見えているけど、遠い先はまるで見えていない。その先が見える人も中にはいて、そういう人のことを天才と呼ぶのだけれど、天才にとっては見ようとして見ているのではなくて、ただ見えてしまう、聞こえてしまう。感じてしまう。触ってしまう。

生殖のためとされる行いもまた予感を満たしていく行為。感じるものを辿っていくこと。でもそこでは時間は流れない。どこにも。どこへも。果てしない。果てもない。浮びながら沈んでいく。

「物質的恍惚」と僕は言う。

「こうこつ?」、君は言う。

「何かに心を奪われてうっとりすること」

「物質的?」

僕はその質問には答えずに、別の本を手に取る。

僕たちの関係はずっと前に壊れてしまっていることをどうやって伝えればいいのだろうか。

そのことにまだ気がつかないでいる相手に対して。

「完璧なプロポーションの女の子がいたとして、その子の左足の太ももだけがものすごく太かったとしたら気になるでしょすごく。だからそういうこと」

「全然わかんない」

そう言って-ナメクジイヤホン🎧-と書いてあるヘッドフォンを手に取る。

芥川賞取った作家が亡くなったらしいよ」

芥川賞取ったって死ぬでしょ。芥川自身早死にしたんでしょ」

「早死にっていうか自殺だけどね」

「ぼんやりとした不安」

「ぼんやりとした不安」

未来に起こることを知っている。過去に起きたことが本当に起きたことなのか自信がない。いまという現在地のゆらぎ。

 

芥川賞って何か書かないと取れないのかな」

「なんで取りたいの?」

「賞金あるでしょ。あと、売れるでしょ」

「歌でもいいのかな。ボブ・ディランノーベル賞取ったし。ケンドリック・ラマーがピューリッツァー賞取ったように」

「じゃあいいんじゃない」

「映像でもいいのかな」

「ぼんやりとした不安を表現できていればいいんじゃない?」

 

芥川賞に映像作品で挑む趣意書】

文学とは何か

活字で読まれなければならないのか

現実も撮ることで『嘘』になるならば嘘を撮れば『リアル』になるだろう

 

-二週間後-

 

「遺書を書いたので掲載してもらえませんか」という手紙を出版各社に送ったが反応がない。

 

-その二週間前-

 

Xoloitzcuintli

 

メモに残っていたこれは暗号か何かなのか。検索してみると犬の写真が出てきた。

Mexican hairless dog

そうだった。

詳しくはDogmentary TVを確認いただきたいのだが。

Pharaoh dog

これはもっとかっこいい。

 

で、何だっけ。

 

そうだ、忘れてた。

 

小説書こうと思ってこの部屋を借りたんだった。この部屋であらゆることが起きるのだ。

恋愛、スポーツ、サスペンス、アクション、ホラー、SF、ファンタジー、家族、歴史、伝記。キーワードは時間軸のずれだ。

 

僕の彼女が部屋にやってくる。「入っていい?」「入れてやるもんか」彼女は僕の脇腹を潜り抜けて部屋の中に飛び込む。床なんかなくて一面はヘレノールモルフォの鱗粉をまぶしたようなプールへ水飛沫も立てずにするっと潜り込み、そのまま浮かんでこない。その瞬間に僕の足首をギュッと掴んで引きずり込む。長い髪が僕の目のあたりを何重にも巻きながら首にも巻き付いてくる。息が苦しくなり始めた頃に視界が戻り光が見えてプールの水が裏返しになり細胞膜のような透明なシェルターが広がったと思うとその向こうには漆黒の宇宙の闇から片耳には耳を劈く轟音ともう片耳には純度100%の沈黙の音圧差によって三半規管が超高速で回転、直後に無回転で垂直に落ちる。明るくなった時には父親の微笑みと母親の涙。そうだ僕はこの世に生まれ落ちたのだ再び。

 

この時流れていた音楽はGranados:Goyescas & 12 Danzas Espanolas & 6 Escenas Romanticas/ Jean-Francois Heisserから 

Goyescas: Ⅰ.Los Requiebros

 

検索したら出てきたWikipediaより:

作曲者のEnrique Granadosはバルセロナでピアノを学び、1911年に画家のゴヤをモチーフにしたGoyescasを作曲、オペラ作品に仕立て上げたが上演直前に第一次世界大戦が勃発し延期に。1916年にニューヨークで初演、好評を博し、帰国の途、イギリスで乗船したフェリーがUボートの攻撃で真っ二つに。海に投げ出された奥さんを助けようと救命ボートから海に飛び込み、帰らぬ人となった。半分に割れた船の片方は80人の乗客とともに海の藻屑と消えたが、Enrique Granadosの客室があった方は沈まず、彼と妻だけが唯一の犠牲者となった。彼と妻には6人の子供がいた。そのうちの一人、Enrique は水泳選手で、そのまた息子もEnrique という名で彼もまた水泳選手、1952年ヘルシンキ五輪に出場、2018年に亡くなっている。

 

El Pelele  なんて美しい曲なんだ。この世に生きる喜びを謳うような。

 

死ぬまで完成しない文学を書くよ。ずっと書き込んでいけばいいんだから絶対に未完で終わる。それにしても音楽はすごいよね。永遠に完成しないんだから。永遠に新しい響きがそこに待っているんだ。人間がいる限り。人間が音を奏でる指を持ち続ける限りね。

 

。。。

 

「僕はドーナツ🍩人間のだ。足が長くて顔は小さい。中身は空洞だ。情報で埋める。世界の情報は全部僕のとこに集まる。でも溜まるから計画放水する。ちょっとの人は見てる。」(原文ママ

 

性が分岐して、生殖し、DNAをコピーして、子孫を遺すようになったのは、環境の変化に対応して種を残していくためだとしたら、それが「進化」と呼ばれるものだとしたら、進化の必要がなくなった時に、生殖は必要なのだろうか。

 

僕たちの愛は、いま、どこにいる?

 

恋愛のパターンというものは言語のパターンに縛られている。平安時代は真反対の感情さえも一つの言葉で表されていたということは悲しい曲なのに光が射すように感じるのと同じようにどっちつかず。その不安定さに漂うことが生きている実感であったかのように。

 

微細な断層の重なり。一つの小節のなかで左手が4つの音を弾き、右手が5つの音を弾く。しかし個々の音の強さの加減で響きは微妙に変化していく。左手の響きと右手の響きがふくよかに広がることもあれば耳障りに軋むこともある。そういうものが寄せては返していく。大気圏外から見れば穏やかな海も地表に近づけば二度と現れない複雑な波のパターンが見えてくる。そんなものをコントロールしようとする、あるいはできると考えることさえどうかしている。#蜜蜂と遠雷 #First Man #45 Years

 

結局、すべて偶然でしかないけれど、だからってそうならなかったのも運命ではない。というのは

 

【イノシシが、シカが電車に衝突 ほぼ同時刻に別電車 JR草津線

JR西日本は13日、午後6時6分頃に滋賀県内の草津線油日駅柘植駅間、貴生川駅三雲駅間で列車が動物と接触したため、それぞれ車両と線路の確認をしたと発表した。
 JR西日本によると、草津線油日駅柘植駅間の上り普通電車に衝突したのはイノシシとみられ、貴生川駅三雲駅間で下り普通電車に衝突したのは、シカとみられるという。けが人はなかった。油日駅貴生川駅から4駅目。

京都新聞

 

人間だったらちょっと怖い。今日が金曜日でなくてよかった。それが僕と君でなくてよかった。

 

人間が全般的に、一般的に?退化し始めたのはわりと最近のことだったらしく、もちろん退化と言っても明らかに目に見えるレベルのものではない。相手が触ってきてもそのことに気づくまで数分かかる。そういう類の事。

 

「やっと気づいたのね。さっきからずっと触っているのに」

 

翌朝、私達は王立医療院にいた。

 

パーカーのフードのようにデレってなったスロープから中に入ると、出しすぎた歯磨き粉みたいにグダっと床に寝そべってるものがある。死体でなければたぶん生きた血の通った人間なんだろう。ただし臭いはしない。臭い分子そのものが完全に吸い取られてしまっている。空中には音の分子がくるくる回っていて、いくつかぶつかったり、くっついたり、並んで急降下したりしている。それはどうやらホワイトノイズのようで、床に寝そべったヒトのような生物の呼吸音がまるで聞こえない。そのために彼らの生死は窺い知れない。病院の入り口で何をしているのですかと聞いてみたところで彼ら自身にも分かるはずもない。

 

AIが進化すれば意識を持つと考えられているが本当にそうか?

 

病院の売店ではサボテンのように培養脳が売っている。うまく育てば意識が宿ると書いてある。ポジティブな意識であれば癒し効果が認められる。私達が孤独を感じるのは意識が宿っていないものに囲まれているから、宇宙空間のように。そんな孤独に耐えられるのはAIだけだ。あるいは AIに意識が宿れば孤独を感じる。そうすれば孤独に耐えられない。だったら意識なんかいらないな、

 

「意識を一個、買って帰ろうよ」と彼に相談する。

「そうだね、いいね。僕もちょうど寂しかったし」

「水をあげるのを忘れないようにしないとね」

 

天然の水はほとんどもう手に入らない。そのかわり人工的に精製された水のようなものが使われている。時々地中から湧き出して街が洪水のようになるけどその水は様々な菌を含むらしく陽が落ちると緑青くメタリックに光る。明るいうちは無色透明で射し込む光が白亜紀の水竜の鱗みたいに乱反射するのだからけっこうタチが悪い性質。香りは、そうね。少しだけ干し草のよう。何か思い出せそうで思い出せない。あんまり考えると眠くなる。ふー。