Wakeupalicedear!

最近はほとんどドラマの感想なんだけど、ほんとは短い小説を書くためなんだけど。

月9の『ラヴソング』、黙って耳をすませば藤原さくらの心の震えが聴こえてくるはずだから。

福山雅治の結婚後初の月9、『ラヴソング』。スターを揃えても初回から視聴率がかなり悪いっていう、これはこれで新機軸としてアリなんじゃないかと思えばいいんじゃないですかね。

 

不思議なんだけど、視聴率が悪いってことだけで叩く記事は、何で叩いてるんだっけ?テレビ局の上層部に金の無駄遣いするなって叩かれるならまだしも、お宅たちに何か迷惑かかってますかっていう。

 

そういう記事書く輩に限って絶対オンエアどころか録画さえ見てないよね。で、(事情通)とかいうコメントが出てくるけど、周りのドラマ好きに聞いた話ってだけだよね。自分は見てないからさ。そういう記事で金貰う奴らこそ叩かれるべき。なめてんのか。

 

そういうのはほっといて。

 

とにかくいい役者をここまで揃えたもんです。木下ほうか、夏帆水野美紀菅田将暉田中哲司。一筋縄ではいかないメンツが、わりと作らない素直な演技をしてる。ブスにもかわいくも見せようとしていないし、いい奴にも嫌な奴にも見せようとしていないし、こういう人、みなさんの周りにもいるでしょって感じで。

 

あいかわらず福山は福山でしかなく、高畑淳子を前にしてでも何も崩れず、おもしろくとも何ともない。でもそれはどうでもよくて、キムタクがキムタクでしかないのと同じように、そういう立ち位置の人はそれでいいので、別に。

 

俺、結構ギターうまいのにさ、『ガリレオ』のオープニングだって俺が書いてんだぜ、なんでもっとギタリストとして、作曲家として評価されないんだ?って、イケメン日本代表候補で満足すべきなのに欲張っちゃっうのも別に普通じゃん。

 

それより、やっぱり藤原さくら、衝撃。この子、天才じゃないのか?

 

カウンセラーという設定の福山を前にどもるところで(ドラマは慎重にどもるって言葉を避けて吃音って言ってたけど)、言葉が出てくるようにって腿を手で叩くんだけど、細切れに出てくる言葉の音と手で腿を叩く音のリズムが裏打ちになってる。こんなの、計算してできるものじゃないんじゃないの?(それさえもわからないが)福山が思わず引き込まれてるんだけど、あれは「素」の反応だし。

 

でもそもそも顔を汚しちゃったのはまずかった。『精霊の守り人』の綾瀬はるかもそうだけど、最近の、「視聴率を持ってる」視聴者たちは、「汚い」のを嫌います。不潔なのを嫌います。心が本当に綺麗かどうか、ただの綺麗事じゃないかどうかなんて考えたこともないです、たぶん。

 

ここで「話すのは・・・苦手、ですかぁ?」と福山に聞かれて涙がこぼれるんじゃなくて、涙がにじむんです。間違ってもぽろぽろ落ちちゃったりはしない。なんか「リアル」っていうのとも違うんだけど、なんか、こういうの、何て言えばいいんだろう。

 

そこにたどたどしいピアノ。片手で弾いてるような。

 

大丈夫です、って言って、汚い軍手で拭いて、顔がまたさらに汚れて。それを福山が「いいっすか?」って(「何が?」って思うくらいの間をあけて)、ティッシュを水で濡らして汚れを拭き取り、恥ずかしくなった藤原さくらが慌てて部屋を出ていこうとするんだけど、ドアを押しても押しても開かないときに、完全に体の力が抜けるんです一瞬。そこで福山が、「それ、引くんです」、って言えるっていう。この自然すぎる脱力、絶対、まして新人には難しいはずです。力を抜く、なんて、一番。

 

そしてニヤニヤしながらトラック工場に戻ってくるところも長回し。音楽の一発撮りに近いノリでやってるんでしょうね。そして、トラックの下にもぐりこんで福山に拭いてもらったところを思わず撫でる藤原さくらの顔が懐中電灯の光に明るく浮かび上がる月9ならではの照明。汚いところに健気に咲く女の子ほどかわいいっていう有村架純からバトンタッチの路線。いいんじゃないですか。

 

そして、菅田将暉の、妙に芝居がかった最近の若者を、芝居することで普通にリアルに見えるという、ねじれたリアルさを鑑賞しつつ、夏帆も見守り的な脇役をやるようになったんだあっていう感傷に浸りつつ、

 

藤原さくら、夏帆菅田将暉の、なんか歳がばらばらで括れてるのか括れてないのかわからない幼なじみ感を、いままでの3人のこれまでを振り返るシークエンスで無理やり作っちゃうんだが、ここが時期と場所ごとに見事に色のトーンを変えていて、夏帆のセーラー服も特に違和感なくスルーしつつ、3人の絆の深さが分かったところで、桜の花びら散る金麦のほろ酔い気分。このさりげなさがプロの技というもの。

 

そして家に帰ってきた藤原さくらにベットの中の夏帆がすっぴんだから顔も見せずに、赤ちゃんができて母親に捨てられた自分が母になれるのかと不安を吐露するシーンで夏帆もまた、左手で腿をもちろん軽くだけれどそれでもかなり大きくぽんぽんと叩いているのだ。それはどもったときの藤原さくらと同じよう。

 

「ちゃんと家族になれるんかなあ、そんなん知らんのに」

 

と思ったら夏帆、すっぴん見せたぞ。

 

そして、藤原さくらは夏帆のために結婚式でスピーチをする決心をして福山のところに行き、また一生懸命話そうとするシーン。力が入るところでは声にならず、と思った次の瞬間に一瞬で力が抜けて声が出る。もう驚嘆。力って抜けませんから意識的には。さっき言いましたっけ言いましたよねこれはいったいどういう種類の運動神経なんだろう合気道の達人みたいなことですよきっと。

 

そして藤原さくらが無理やり幹事を引き受けさせられた職場の新歓の飲み会の予約のために特に苦手な電話をしてると思わせて実は隣の部屋にいた菅田将暉と練習をしてただけだったというシーン、ドンドンドンって菅田将暉が歩いてきて登場する、オーソン・ウェルズの『黒い罠』のクライマックスの盗聴のシーンを思い出す。長回しといい、好きなんだろうな。こういう音の小ネタを今後、どれだけ挟みこめるだろうか。

 

夏帆と藤原さくらの対決シーン。夏帆が殴る音。パシンじゃなくバンと低温が響く。そして夏帆のドスの利いた声を下回る藤原さくらのバリトンボイス。「キャバ嬢のくせに」って、お互いに張り上げないからこその迫力。地方出身の苦難と葛藤と根性、「いつ恋」からまだここでも続いてる。幻想でもキラキラすべき月9だからこそあえて。

 

いつまでも終わらないので、とばしてクライマックスにいこう。

 

水野美紀のクリニックに行って、歌ってみようかって言われて、しゃべるのもきついのに歌えるわけなんかないのに歌いだすとき、その変わりたいっていう必死さが心打たずにはいられない。しかも歌手なのに上手く歌おうという邪念が一切ない。『タイヨウのうた』のYUIをこえるべく(BABYMETALが全米を席捲しようとも、ましてYUIMETALではなく)。

 

藤原さくらが福山と同じアミューズとかそういうのもどうでもよくって、菅田将暉がかつてアミューズのオーディション落ちているとかそういうのもどうでもよくって、オーディション映像まで公開してリアルなシンデレラストーリーをメタフィジカルに演出しようという邪念はさらにどうでもよくって、むしろ福山は今回脇役なんだよってことにもっと徹した方が良くて、単純にいうならば、福山のギターがいい音鳴らしていたということこそが見どころ聞きどころなんだから。セリフよりギターの音のほうが全然響いてたし。

 

つべこべ言うなら、このアナログを聞いてからにしていただきたい。伝説のカッティング・エンジニア、小鐵徹の神業で刻まれた奇跡の音ですよ。福山の真価はここにあるから。

 

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だからこの際、ストーリーなんてどうでもいいんです。藤原さくらの天から降りてきたような演技とさりげなく凝りまくった音の響きを味わうためだけのドラマだから。そして黙って耳をすませば、藤原さくらの心の震えが聴こえてくるはずだから。