悪魔の証明 ー 天使の証明

Shortest stories without stories.

パパの秘密のおしごと

「パパ―、ごはんできたわよー」

 

私は幸せな夫であり、また幸せな父親である。

 

この平和な国に生まれてよかったとつくづく思う。

 

かわいい娘の成長を毎日自分の目で確かめられること以上に幸せなことがこの世にあるだろうか。

 

この愛する娘のためにこの国がいつまでも平和な国であってほしい。

 

そう願わない親がどこにいるだろうか。

 

「ちょっと待ってねー。もうすぐ終わるから」

 

私は凄腕の狙撃手である。それは妻も知らない。国家機密だからだ。

 

パソコンのモニターに映し出されるのがどこの誰だかは知らされることはないが、狙撃手の構えたライフルのスコープには標的の姿が映し出され、ライフルの角度から照準まで全て私が遠隔操作する。

 

迷いはない。標的が誰であろうと、この国の治安を守るために撃てと命じられれば躊躇なく撃つ。この国を愛するものとして、その責任の一端を果たす。

 

しかし、同時に良き夫であり、良き父でもあろうとする努力を惜しまない。在宅勤務が基本であるから、子どもの世話と妻が出かけたあとの家事は私の役目だ。近所のママたちともうまくやっている。

 

そろそろ自分たちの親の面倒も見ることになるだろうから、介護についても勉強を始めているところだ。

 

さて、将来設計はほどほどに、今日の任務を速やかに終わらせねば。

 

スコープに映し出されているのは、食卓につくまだ2歳ぐらいの幼い女の子だ。私の娘と同じくらいだなと思いながらも引き金をひく。対象に余計な私情を挟むようではこの仕事はやっていけない。しかも急がないと娘が先に朝食に手を付けてしまう。娘と一緒に「いただきます!」をするのが至福の瞬間なのだから。

 

「パパ、聞こえてるー?ごはんできたって・・・もうっ、パパ遅いわね・・・今日は早めに出ないといけないんだから」

 

「ごめん、すぐ終わるから!」

 

引き金をひいた瞬間、何かが倒れる音と、耳を切り裂くような悲鳴が聞こえた。