Wakeupalicedear!

Shortest stories

森の言葉を話せなければ、森には入らないほうがいい。

 

僕は今日、ふと気づく。

 

ここで話されている言葉が話せない。

あるいは、

話すべき言葉が話せない。

それはたぶん、どこでも同じように。

 

中東の市場を歩いているような。

解放感と。

疎外感。

 

しかしざわめきたつ東京の街でも。

深い湖の底に沈んでいるかのよう。

空からは明るい光が射すのだけれど、

誰の言葉も届かない。

音としては見えるけれど、意味としては何も聞こえてこない。

辞書もなく読む、キリル文字の新聞のように。

 

僕はいっしょうけんめいに、話す。

でもすぐに消えてなくなってしまう。

その前に誰が僕の言葉の意味を理解してくれるのだろうか。

まるで表情のない真っ白な顔で、瞬きもせずに、ただじっと僕を見つめながら、

少しだけ首を傾げる。

『何か、言いましたか』

 

いいえ、言っていないです。

何も。

ひとことも。

ずっと黙っていましたから。

口を閉じていましたから。

だって、

僕は、この森の言葉を話すことができない、ただの出来損ないなんですから。