僕は今日、ふと気づく。
ここで話されている言葉が話せない。
あるいは、
話すべき言葉が話せない。
それはたぶん、どこでも同じように。
中東の市場を歩いているような。
解放感と。
疎外感。
しかしざわめきたつ東京の街でも。
深い湖の底に沈んでいるかのよう。
空からは明るい光が射すのだけれど、
誰の言葉も届かない。
音としては見えるけれど、意味としては何も聞こえてこない。
辞書もなく読む、キリル文字の新聞のように。
僕はいっしょうけんめいに、話す。
でもすぐに消えてなくなってしまう。
その前に誰が僕の言葉の意味を理解してくれるのだろうか。
まるで表情のない真っ白な顔で、瞬きもせずに、ただじっと僕を見つめながら、
少しだけ首を傾げる。
『何か、言いましたか』
いいえ、言っていないです。
何も。
ひとことも。
ずっと黙っていましたから。
口を閉じていましたから。
だって、
僕は、この森の言葉を話すことができない、ただの出来損ないなんですから。