「こころってなんでこんなに不安定なんですか」
「文章を書くときは、推敲して、いちおうこれでいいかなという状態にして保存するわけです。こころってとりとめもなくなく、いろいろ感じたり、考えたりしていることを、常に一時保存しているんですが、逆に言えば永遠に一時保存しているだけで、ちゃんと推敲してはいないんです」
「それってどうなんでしょうか。これで完成、これ以上筆を入れるなって自分の心に命じたところで、勝手にどんどん書き換えていってしまう。好きな彼氏だって彼女だって何もかも全部好きって最初は思っていても心が勝手に書き換えていってしまうわけじゃないですか、相手の理想の姿を現実的に修正してしまうって、そんなの書き換えずにただ目をつぶって、このままでいいという状態でずっと保存しておけばいいじゃないですか。何が支障あるって言うんですか。でも自分自身のこころでさえコントロールできないなら、それはいったい誰のこころですか。それは病気なんですか、あるいはそもそも人間はそういうものなんですか」
「私の知る限り病気ではありません。デフォルトで遺伝子に入っている一時保存機能をOFFにしましょう。ただし一旦OFFにすると、ONにするには少なくとも１０年はかかります。それでもよろしいですね？」
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「どうですか、術後の調子は？」
「・・・いい・・・と思います。あれ・・・わたし・・・いいと思います？・・・いいと思いますと言いました？・・・それともいいと思いますと言ったと思っているのでしょうかわたしは？・・・」
「言いましたよね。またONにするには少なくとも１０年はかかります」
