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Shortest stories

アダムの食べたリンゴのかけらはいまどこに?

Q 「どこでイマジネーションが浮かぶんですか?」

という何の役に立つのかわからない質問に対してクリエイターたちが口を揃えて言うことは、

 

A お風呂。

あるいは

A シャワーを浴びているとき。

 

つまり、裸になっているとき。ただし、セックスをしていないときに限る(両立する人は、いわゆる変態の疑いがあるので、少し心配した方がいいかもしれない)。

 

水との関係は考えられなくもないが、プール、あるいは海で浮かんでいるときに、「無」になれるというならまだしも、発想が浮かびやすいというクリエイターはあまり聞いたことがないので、とりあえずさておく。

 

創世記によると、アダムとイブは蛇にそそのかされて「禁断の果実」を口にし、知恵を身につけたため、楽園を追放された。そして裸でいることが恥ずかしくなり、服を纏うようになった、という。

 

しかし、先ほどの仮説のように、もっとも人間らしい創造活動ができるのは、裸になっているときであるとすると、蛇は人間に余計な「知恵」を身につけさせて、ついでに服を身に着けさせて、想像力を奪ったということになるのでは。

 

しかし、裸になって書くなり、描くなり、弾くなり、踊るなりすれば誰でもわかることであるが、裸になりさえすれば、創造的な発想が浮かぶのかというと、そういう単純なものでもない。

 

そこで、「禁断の果実」と「人間の知恵」とのクリエイティブな関係、さらに歴史的な背景をまとめながら、その未来について考察する。

 

リンゴである。

 

≪アダムの食べたリンゴのかけらはいまどこに?≫

アダムとイブが食べたのはふつうリンゴであるとされているが、創世記にはっきりそう書かれているわけではない。「リンゴ」と「邪悪」がラテン語でほぼ同じ表記であり、mālum (リンゴ) mălum (邪悪)で、ふつうは両方ともmalumと書く。そんなわけで「リンゴ」は罪、あるいは性的誘惑の象徴ともされる。ちなみに、喉仏のことを英語ではAdam’s appleともいう。アダムが食べたリンゴのかけらが残っているのだということらしい。喉仏を取れば「罪」から逃れられるのかもしれないが、日本では「仏」であるし、第一、骨を取り出すのは死んだときである。

 

≪白雪姫の食べたリンゴは何色なのか?≫

白雪姫は、毒リンゴを口にして、眠りに落ちるのだが、グリム童話初版本では、実母の王妃が白雪姫に食べさせたのは、赤と緑のツートンカラーのリンゴで、赤いほうだけに毒が入っていた。死んだと思われていた白雪姫は棺で運ばれる途中、つまずいて揺れた時に、白雪姫がのどに詰まっていたリンゴのかけら(芯?)を吐き出して息を吹き返す。

 

≪カンバーバッチは最後にかじるのか?≫

チューリングマシンと呼ばれる人工知能やコンピューターの原理となる考え方を提案し、第二次世界大戦中、ドイツの暗号「エニグマ」を解読するチームを指揮したアラン・チューリングは、青酸カリ入りのリンゴで自殺した。映画の「白雪姫」を見たあと、「魔法の秘薬にリンゴを漬けよう。永遠なる眠りが浸み込むように」と言ったらしい。3月公開予定、カンバーバッチがチューリングを演じる映画を見よう。

 

AppleはなぜAppleなのか≫

Appleは、欠けたリンゴのロゴマークは、チェリーと区別するためであり、アダムとイブとも、チューリングとも関係ないと言っている。そもそもなぜAppleかについてジョブズは、「リンゴ狩りに行ったばかりだったし、明るいイメージだし」とあまり面白くもない説明をしている。ジョブズはかなりのビートルズファンではあったが。

 

≪ポールが持っているのはどのリンゴ?≫

というわけでAppleが1978年から30年近くにわたって商標権をめぐって裁判を繰り広げたのが、アップルレコード、言わずと知れたビートルズのレーベルの親会社である。ポールがルネ・マグリッドの青りんごから名付けたらしいが、その絵は有名な「盗聴の部屋La Chambre D'écoute(1958)」「美しい世界Le Beau Monde(1962)」「これはりんごではないCeci N'est pas une Pomme(1964)」「人の子Le Fils de L'homme(1964)」のどれでもなく、死の前年1966年の作品“Le Jeu de Morre”で、リンゴの表面に“Au revoir”(フランス語で「さよなら」ですね)と書いてある。“Le Jeu de Morre”というのは相手が開く指の数を当てるじゃんけんみたいなゲームで、たぶんあまり意味はなく、“Les Jeunes Amours”(若い愛)のだじゃれではないかとも言われていて、これが何を指しているかというと、マグリッドの絵は人とかリンゴも宙に浮いているモチーフも多く、「いずれは墜ちること」を暗示しているともとれるし、やっぱり楽園から墜ちたアダムとイブなんじゃないか、やっぱりそこに戻るのかという話。

 

【それで結論は?】

時代の波にうまく乗っかって浮かれ気分でゴージャスなホテルのプールで実際に浮かんでいるクリエイティブな人たちも禁断の果実を口にすればいずれは墜ちるということ???禁断の果実ってなに?喉元に?