私は犯罪を憎みます。
家族を一瞬で奪われたからです。
この世界はありとあらゆる犯罪に満ちています。
どんな事情や理由があっても、故意であってもなくても、犯罪は許されません。
償えばいいというものでもありません。
犯罪がいまこの瞬間にも起きていること、そして何よりも苦しんでいる被害者の家族がいるということ自体、私には耐えられません。
ですから私はこの場所を選びました。
そのためには犯罪を犯すしかなかったのです。
刑事さん、動機はただそれだけです。
お金がないし、寒いし、三食をちゃんと賄ってくれるところに入りたかったとか、そういうこともでありません。
ただ、できる限り、手間を掛けたくなかったし、早く終わらせたかっただけです。
そういうことを考えている時間さえおぞましいからです。
それがなぜか「無差別」とかいう安易な言葉でマスコミには書かれているようですけれど。
信じてください。私は誰よりも犯罪を憎んでいるんですよ。
だって刑務所がこの世で一番犯罪の起きにくい場所じゃないですか。
ナイフひとつ手に入らないんですから。
少なくともここ日本では、凶器を持った暴漢も侵入することはないんですから。
私はそういう犯罪とは縁のない場所で、静かに一生を終えたかったのです。
だからどうしても穢れた俗世間から隔離された塀の中へ行きたかったんです。
刑事さん、もう結構長く勤めてらっしゃるんですよね。
いい加減うんざりなんじゃないですか、こんな身の毛もよだつ犯罪だらけの世の中は。