Wakeupalicedear!

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自分自身と瓜二つの死体

「私は自分自身を殺しました。逮捕してください」

彼は警察署に突然現れ、そう告げた。

「自分を殺したなら、あなたはいまここにいないでしょう。我々もそんなにひまじゃないんだ。ちゃんと自分を殺せてから出直してくれ」

たまたま応対した刑事はウィットをこめてそう答えた。

「気に入りましたよ、刑事さん。なかなか面白いことを言ってくれるじゃないですか。でもね、本当なんですよ」

その男が言うには、自分は天才的な科学者であり、人間のクローンをつくることに世界で初めて、いや人類史上初めて成功した、臨床試験だから自分をサンプルにした、つまり自分のクローンを作ってしまったのだが、そのクローンが自分になり替わるために自分を殺そうとした、だから仕方なくクローンを殺してしまった、しかし、息絶えて床に転がる自分自身と全く同じ死体を見ながら妙な感覚に陥った。これは立派な殺人ではないか、つまり自分は自分自身を殺してしまった殺人犯ではないか、というのだ。

「確かに動物実験ではないし、そう簡単に命を奪うことは人道的にも許されないだろうが・・・クローンだろ?」

そのとき、彼の表情が突然醜く歪んだ。

「クローンをばかにするのか?生物学的には私と全く同じ存在なんだよ。例えば私のクローンが殺人を犯して身を隠したとしよう。そして私が捕まったとしたら、裁判所は躊躇なく私をブタ箱にぶち込むだろう。DNAが全く同じだからだ。つまりDNAが100%同じなら、法律的にも同じとみなされる。違うか?」

刑事の方としてはそんな屁理屈はどうだっていいが、とにかく死体が転がっているという彼のマンションに行ってみることにした。

「確かにお前と瓜二つの死体だ。それで・・・お前は証明できるのか?お前がクローンでのほうではないということを」

「さすがだな。私が見込んだ刑事だけはある。しかしな、どっちだっていいじゃないか。とにかく私は人類の歴史上初めて自分自身を殺した殺人犯として裁かれ、その罪を償う。私は楽しみなんだ。人間はどんな罪を認め、どんな判決を下すのか」

「そして、神はどんな罰をお前に与えるのか」

「ああ、それも楽しみだ。さあ、手錠をかけてくれ。人間の死体が転がっていて、犯人が手を突き出しているのに、ほっとくわけにもいかんだろう、ウィットに富んだ刑事さんよ」