幸せなこどもにも、そうではないこどもにも、とびっきりの笑顔になれる一瞬を届けてくれるサンタクロース。
来る年も来る年もずっとずっと、世界中のこどもたちにプレゼントを配ってきたけれど。
「今年はちょっと、疲れちゃったな」
そんなことをつぶやくものだから、ちょっと心配していたんだ。
サンタクロースだって、年をとる。
年をとっていても、さらに年をとるし、そのうちに見たくないものも見なくちゃいけなくなる。
古い団地の最上階にあるこの家。お風呂から楽しそうな声がこぼれる。こぼれる光まで暖かそうだ。
「おとうさん、背中流してあげるよ」
でも。
サンタは知っているんだ。
そのおとうさんは、こどもたちが知ったらきっと悲しむだろうことを、そんなこと嘘だよっていうことを、してしまっているんだということを。
だから、その部屋の前を、サンタは大きな真っ白な袋を抱えて、うつむきながら、通り過ぎる。
プレゼントは、あげられないんだよ。ごめんね。
しばらくして、その部屋に黒い服の男が訪れる。
「こどもはもう寝かしつけたのか」
静かにうなずく。何かにまだ望みを残したい。そんな表情を浮かべながら。
「心配するな。お前をこのままこどもたちと引き離したりはしない」
黒い服の男は、その部屋に、何かを置いていった。
こどもの笑顔に、ほんの微かな影を、長い時間をかけて落とし続けていくだろう、形の無い何かを。
サンタがいつかその部屋を訪れることがあったとしても、その影までは消し去ることができない。
そのうちにすべてのこどもは大人になり、サンタの姿が見えなくなる。
「あー、おれはここにいるのにな」
サンタは、重くうなだれ、深く白い息を吐きながら、雪道を踏みしめる。
そんなわけで、今日も泣きたい気分だよ。
サンタクロースは独り、つぶやく。
「クライフォーミーベイビー、ミスターサンタクロース」