一歩、一歩、間合いを詰めていく。
瞬きの音さえも憚られる静寂。
息を殺す。
一発で仕留めなければならない。
急所を外すと泣き喚くからだ。
傷んだ獲物を仲間が助けに現れることはなく、ただ目を閉じて物陰に身を潜める。
自分のことでなければ構わない。
自分の身には起きなかったこの幸運を神に感謝しなければいけない。
そんなふうにでも考えているかのように。
それは生きものとして、最も忌むべき、見るに堪えない光景であると俺は思う。
だから、人間という、あまりに脆弱で、卑怯な生き物を、俺たちはたった一発で仕留める。
常に気高くあろうとする俺たちは、研ぎ澄ました爪以外は使わない。
やつらは俺たちとは違い、鉄製の武器を使う。
それだけの知能も備えているから、油断して殺られる奴もいる。
おれの親父もそうだった。
猟師とは、昔からそういう仕事だ。
息子よ、お前も猟師になれとは言わない。
しかし、気高く生きてほしいのだ。
お前の父も、死に際に泣き喚くことはなかった。
そのことだけは信じて、お前の未来を生きてほしいのだ。