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Asymmetric-Symmetrical Cosmetic Surgery を巡る最近の議論について

左右を対称にするべきか。これが最後の一線です。

アンドロイド開発は技術先進国日本の国家としての威信をかけたプロジェクトであり、すべての最先端の科学技術の成果が注ぎ込まれました。その知能は普通の出来の人間に比べて遜色ないレベルにまで達していました。運動性能は遙かに凌駕していました。人間に危害を加えないようにするための安全制御システムを備えていたほどです。

左右対称にすべきかどうかというのは、運動性能に関わる部分ではありません。例外はありますが、生物のほとんどが、左右対称のカラダを持ちます。そのほうが早く、効率的に動けますし、重心のバランスもとりやすいからです。

むしろ、人間の側の心理的な問題なのです。

人間社会に受け入れられるためには、心理的な抵抗感を取り除かなければなりません。完全に左右が対象になっている顔は、普通の人間ではあり得ません。どんな美女でもイケメンでもです。俳優と一般人の差もありません。合成写真で見たことがあると思いますが、なぜか不自然、なのです。

アンドロイドはロボットですから、左右とも全く同じように作ることもできますし、違うように作ることもできます。値段の差はあります。左右同じであれば、デザイン時に反転すればいいので作りやすいからですが、左右違えるのもそれほどの問題ではありません。多少の乱数を加えてやればいいだけです。美学的な左右のバランスを整えたいのであれば、美しいとされる人間の統計的なデータを反映させればいいだけです。

むしろそれよりも、そもそも人間のような自然さを加えるべきかが問題になっているのです。不自然なものに対する心理的な抵抗感は、自然にすることで取り除くことができます。しかし、本来自然ではないものが、自然のものと見た目に区別できなくなってしまうことへの心理的な抵抗感のほうが、いま、問題となっているのです。

つまり、アンドロイドが見た目にアンドロイドに見えなくなってしまうという問題であり、そのために、アンドロイドという存在そのものに対する心理的な抵抗感が、余計に拡大してしまうのではないかという懸念です。

日本のような同質性志向の高い島国では特に、同質性に対して非常に敏感になりがちな傾向があります。

さまざまなロボットのキャラクターを創造することで、心あるクリエイターの先人たちは、その傾向を払拭しようとしてきました。

そしていま、左右対称という最後の壁が立ちはだかっています。

こうしたなか、女性のアンドロイドのなかには、想定外の厳しい反応を目の当たりにして、左右非対称化美容整形で再び左右対称な顔に戻すものも増えているのが現状です。

なお、乳房やおしり、ふくらはぎなど、その他の性的な審美眼に関わる部分についてはそれほど問題とされないのは、アンドロイドとしては不思議だそうです。しいて言うなら、鎖骨ぐらいにしか左右対称性は求められない、鎖骨だって厳密ではない、それは納得できない。そんな声も聞かれますが、大局の議論には今のところ影響していません。なぜなら人間(特に男性)はそういった性的パーツによってどれが誰かの判断、区別をしているわけではなく、性的アピール度の測定をしているにすぎないからです。

男性のアンドロイドは意外と左右対称のままでいたいという傾向が強いのですが、これは逆に気持ち悪いとして、人間の女性からは今のところ無視されています。