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ドミノ倒し


息子が昨日から部屋に閉じこもって何かしている。

 

「何してるんだ?」

 

のぞいてみると、部屋の真ん中に、うちが住んでいる高層マンションのかなり精巧な模型が置いてある。息子はそこから部屋を一つ一つ、積み木崩しのように抜き取っている。

 

「この模型が崩れるとき、このマンション自体が崩れ落ちるんだ」

 

「下らないことはやめなさい」

 

「僕は真剣そのものさ。それにもう止めようとしても無駄だと思うよ。この模型の中にも、この部屋があって、そこでも僕とパパが話をしているんだ。そこにもこの模型があってね、そしてその中にまた僕とパパだ。それが延々と続いているんだ。鏡に鏡を映したときのようにね。だから、いま僕がやめたとしても、その鏡の中のたくさんの僕の中のたった一人でも失敗したら、全てが崩れるんだよ。ドミノ倒しでね。さあパパ。どうするの」