男は画家になりたかった。
自画像を描いていた。
どうしても似ない。
これは自分ではない。
彼は悪魔と契約を交わした。
人生の半分を渡そう。
その代り、自分そのものの自画像を描けるようにしてくれ。
彼は、自分のありのままの自画像が描けるようになった。
しかし、そのうち彼は気づいたのだ。
自分そっくりに描けているのではなく、
自分の描く絵に自分が似てしまうのだ、ということに。
いつの間にか彼は元の顔とは似ても似つかない顔に変貌していた。
それでも構わないさ。自分は画家なんだ。
作品作りに没頭するのが仕事なんだから。
やがて彼の描く絵は抽象性を高めていった。
具象から抽象へ。
ごく自然な流れだ。
そして、そうした抽象画のように、
彼の姿もまた、輪郭を失くし、色が混ざり合い、
人間とは判別がつかないものとなった。