彼女は人間ではなかった。
どちらかというと機械だった。
しかし、その区別にはほとんど意味がなかった。
彼女は究極に発達した生命科学の成果だからだ。
しかし彼女には感情がなかった。
生命維持にそんなものが必要な理由は、
いまだ解明されていなかった。
とりあえず彼女を作った者たちによって、
彼女は人間の感情というものをコレクションするように命じられた。
感情というものは、例外は多々あるが、
基本的に人間が人間に対して抱くものであるとされたため、
彼女は適当な人間の男を見つけ、様々な感情を採取した。
精密に分類し、分析し、その男に対して表出し、
その反応を解析した。
その作業を来る日も来る日も繰り返した。
男は、全ての感情が常に完璧に満たされ、
人類史上最高に、幸福に溢れた人生を全うし、死んだ。
しかし、彼女はというと、悲しくはなかった。
なにせ、感情がないのだ。