地球と火星は恋人同士だった。
地球が流行病に罹り、飢えと渇きにあえいだとき、
火星は地球に優しく口づけし、その豊かな水を地球に注ぎ込んだ。
火星は海を失い、そのわずかな痕跡を、
乾いた大地の上に、傷跡のように残した。
それは命がけのキスだったのだ。
一方、地球は潤いを取り戻し、海を貯え、生命を育んだ。
微かな生命はやがて長い時を経て進化を遂げた。
しかしその進化した生命の無軌道な開発により、
再び渇きに苦しみ、死期を悟った地球は、
火星から与えられた生命を、また火星に送り返そうとしている。
思いの限りの愛を込めて。
火星への有人宇宙飛行。
この成功するはずのないミッションが、無事に成し遂げられたのは、
二つの天体の命がけの愛の力であることを、
その進化した生命の小さな脳みそは知る由もない。