Wakeupalicedear!

Shortest stories

恋文

ネットで知り合った彼女に、
それはそれは心のこもった恋文を送ってたわけだよ。
世界の文学賞総ナメのこのおれがだよ。
世界何億人を相手にしているこのおれが、
たった一人のためにだよ。
それがだよ、たかが機械にやられちゃったわけだよ。
どうやら、やつらは過去人類が書いてきたあらゆる恋文をデータベースにして
相手の性格や境遇に合わせて、最適の表現を導き出すらしいんだ。
過去の恋愛で交わした恋文も探せばどこかに残っているからね。
そういうおれだって誰かが書いたような恋文を書いちゃってるんだろうけどさ。
つまり芸術が、模倣と、ほんの少しのアレンジだけで成り立ってしまうのなら、
我々は機械にさえ打ち勝つ見込みはないってことさ。
いまはほんの少しだけ人間が手伝ってやる必要がある。
しかしそのうちやつらは勝手にやるようになるさ。
冷蔵庫に残っている食材であり合わせの料理を作るみたいに。
いや、豊かな食材があったわけだからね、過去には。
ストックは、もう十分だ。
珠玉の文章を、言葉使いを、巧みに組み合わせて、
小説でさえ、ものの見事にでっち上げるようになるさ。
ぎりぎりこの時代に生きてよかったよ。
もう未来はないな。
彼女と無理心中することにしたよ。
「無理心中」
なんて素敵な響きなんだ。
古臭い、余りにも文学的過ぎる香りだ。