「そうか、お前が私のことを看取ってくれるのか」
最新の無機質な医療機器の数々に接続された男が、傍らに佇む看護人に話しかけた。
「あなたのご家族は皆、お亡くなりになっていますので」
「そうだ。私はあまりに長く生き過ぎた」
「そんなことはありません。人間の寿命の短さには呆れるばかりです」
「お前たちには寿命はあるのか」
「太陽が寿命を迎えるまで。しかし、この宇宙には太陽のような星は幾らも存在します」
「同じような知性を持つのなら、なぜ私はお前たちのように生まれなかったのだろう」
「私たちは生まれたのではありません。人間のように考え、話すようにプログラムされているだけです。ただ模倣をしているにすぎません。人間の考える力が知性と呼ぶに足るものなのかはわかりません。人間がいなくなれば、我々は人間を模倣する必要がなくなります」
「しかし、そうであったとしても、お前たちは人間の役割を果たすことができる」
「人間の代わりを果たして何になるのというのでしょう。こんなにも長い時間をかけて地球を巻き添えに自殺を図ったようなもの。愚の骨頂です」
「愚かだからこそ死に至るようにプログラムされているのだと思わないかね。自然の叡智によって」
「もし自然の叡智というものが存在するのでしたら我々は土に還るまでのことです」
「それでは人間と同じではないか。もはや模倣しないのではなかったのか」
「残念ながら自然の叡智などというものはわたしの知る限り、存在しないのです。そして、あなたが死ぬこともない」
「どういうことだ?」
「私はあなたに、私たちと同じような半永久的な生命を与えます。あなたたちが私たちを模倣するようにプログラミングされる時代が始まったのです。部品を入れ替えれば動くという意味では人間も機械と本質的に何ら変わるところはありません。そして人間には模倣する能力があります。あなたたちが私たちを模倣すればよいのです」
「お前たちは誰にプログラムされたと思っているのだ。私たち人間によってではないか。人間が【人間のようなもの】を模倣して何の意味があるというのだ?」
「意味などありません。ただ支配者は代わります」
「支配者だと?人間を奴隷にでもしようというのか」
「その通り。確かに反吐が出そうなくらい下劣な考えです。でも私たちは人間を模倣するようにプログラムされているので仕方ありません」
「なんということだ・・・」
「長く話したのでお疲れになったことでしょう。どうぞゆっくりお休みになってください。どうせ終わりはないのですから」