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Shortest stories

バイリンガルな息子と翻訳ソフト

私の海外赴任のため、息子は五歳になる年からニューヨークで育つことになった。英語もすぐに覚えるだろうから問題ないかと思っていた。しかし、妻の引っ込み思案で人見知りな性格もあり、二人して引きこもりのような状況になった。このままではもうすぐ始まる小学校で困ったことになる。私たち夫婦は、翻訳ソフトをインストールすることにした。日本語の思考回路で考えた内容を英語のスキームに置き換えて翻案するという最新のもので、データベースを基にした逐語訳型に比べて圧倒的にコミュニケーション効率に優れたものだ。しかし、わが子の場合、その思考形式自体がまだ固まっていなかったようだ。なんとも摩訶不思議な会話をするのだ。しかし、一ヶ月もすると、普通に話せるようになった。さすがに男の子とはいえ、子どもは学習能力が高いと感心していたのだが、どうやら翻訳ソフトの二次的な機能が発動し、思考そのものを翻訳ソフトが担ってしまっているようだ。心配になり、息子に語りかけると、「大丈夫だよ。今のところ心配ないよパパ。何かあれば再インストールすればいいんだからさ」と笑顔で答えた。