Wakeupalicedear!

Shortest stories

Multi-layered Timeline

我々の人生はセキュリティー上の理由から、すべて撮影・記録され、デジタルデータ化されている。

何を学び、どんな人間になったか、何を考え、何に悩み、どんな失敗をして、どんな挫折を繰り返したか。どこで道を誤り、取り返しがつかなくなったか。そしていかに世界中の人々が同じように反省のない人生を生き、総体としても救いようのない歴史を繰り返してきたか。そこで我々は生き方自体を大きく変えることにしたのだ。以下の通り。
 
世界を複層的に構成する。時間軸・空間軸の異なる多数のレイヤーを重ねながらつくるのだ。既に死んでいる人間の人生も組み込まれており、そこに別の人間のレイヤーを挟み込むことで、物事の進み具合が異なった様相を示し始める。論理的に辻褄の合わなくなる部分は自動的にデリートされ、ゴミ箱に保存される。その後の流れの変化によっては復元されることもある。
 
私は幼いころに生き別れた父とともに仕事をしている。私は父の人生を知らないので、彼の動きは予測不能であり、私にとって彼は「生きている」のと何ら変わりはない。いや、私の人生も、デジタル化されたデータであるという意味で、父の人生と同じなのである。
 
別れた彼女といつのまにか、よりを戻している。あのときあんなこと言わなければよかったという後悔はあるが、どうもぐるぐる回っている。知らないうちに何度も地雷を踏んでいるようだ。最近、ライバルが現れた。私の彼女を奪おうとするけしからん奴は誰だと思ったら、どうも私のひ孫らしい。私はまだ生きているのだろうか。