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Wakeupalicedear!

最近はほとんどドラマの感想なんだけど、ほんとは短い小説を書くためなんだけど。

パスワード

ミステリー

単身赴任していた夫が亡くなった。
過労がそもそもの原因だろうけど、因果関係など証明のしようもない。
警察の人は、事件性はないようです、と言った。
律儀に整理整頓された小さな部屋には少し大きすぎるようにも思えるパイン材のテーブルにはPCが置いてあった。
ふたを開けて、電源を入れてみる。
パスワード。
わからない。
遺書がないなら、何かそういうものを、何かしら私のために一言でも残してくれるはず。
あんなに優しかったのだから、こんなに残酷なことを最後にするはずがないの。
それからというもの、私はずっとパスワードを打ち込み続けている。

                         *

独り暮らしをしていた母が亡くなった。
孤独死。いわゆる。
一人にさせてしまった私たち子供が悪いのだ。
父が亡くなってから、ずっと父のPCのパスワードを探していた。
母の部屋にPCが残されていた。

ふたを開けて、電源を入れてみる。
ものすごく古い型だけれど、まだ動くようだ。
パスワード。
わからない。
父と同じだ。
これでは私も一生パスワードを探し続けることになってしまう。
だから決めた。
年老いて一人暮らしを始める前にはパスワードを外そう。
愛する娘のために。
 
                         *
 
母が交通事故で亡くなった。
あまりに突然に。
母は私のことをどんなふうに思っていてくれていたのだろう。
何でもいいから知りたい。
PCには何か残っているかもしれない。
でもいつもパスワードをかけていた。
わからない。
だから私はそれ以来スマホにはパスワードをかけないことにした。
私にいつか子供ができて、でも幸せな日々の中で、私が突然いなくなる運命だったときのために。
 
                         *
 
パパとママが別れることになった。
パパがママのスマホをこっそり見ていたらしい。急に綺麗になったりしたら誰だって怪しむわ。
パスワードをどうしてかけないのか、ママに聞いてみたけど、ちゃんと答えてくれなかった。
出て行ったパパとは連絡が取れなくなった。別の人生を始めたみたい。仕方ない。
私たち姉妹はママと生きていくことになる。
結局一人になったママに何かあったら私たちはどうすればいいんだろう。
さっきも言ったように、ママのスマホにはパスワードがかかっていないけど、別に見たくもない。
親だって他人だから、何を考えているかなんて、知りたくもないし、その必要もない。