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Wakeupalicedear!

最近はほとんどドラマの感想なんだけど、ほんとは短い小説を書くためなんだけど。

206番のお客様は誰だ?

日本の銀行というものは、営業時間が終わると、シャッターを閉める。しかし、俺は番号札を持っている。だからまだ、中にいる。ミシミシと嫌な音をたてながら、ドンドンッと閉まった。外界から完全に隔離された状態だ。まるで銀行強盗に入られたようだな。これで安心だ。工事のおっさん二人組が小走りで入ってくる。そのうちガタガタと音がし始めた。

 
「大変お待たせしました、206番でお待ちのお客様」と、この客がふざけた客で、他にも待っているというのに、悠然と歩きやがる。そこで、「いつまで待たせんだ!」とわめく客がいる。一回ならまだしも、「いつまで待たせんだ!いつまで待たせんだ!いつまで待たせんだ!いつまで待たせんだ!」と何度も繰り返すのは尋常じゃない。「大変申し訳ございません。お客様は何番をお持ちでいらっしゃいますか・・・」「うっせー、おれは数字が読めねえんだ、馬鹿にしてんのかぁ!」って、数字が読めずに銀行に来るんじゃないと言われそうだが、こっちのおばちゃんは、「トイレに行きたいんですけど、どこですかね?シャッター閉まってるから・・・」「申し訳ございません、ご案内いたします・・・」「あの、大きいほうだから、あんまり早く歩けない。早く歩くと、出」「わかりました。ゆっくり、なさってください」「なさるって、ここで?」「いえ!トイレまでご案内しますから!」「悪いわねぇ。そんな歳でもないんだけどねェ」と、ガサガサ衣擦れの乾いた音にピチャクチャとねちっこい音も重なり、「やだ、こんなとこで、ちょおっとーぉ、ダメ・・・ダメだってもう!・・・まいっかちょっとだけね」「・・・恐縮ですが、他のお客様のご迷惑に・・・あの・・・聞いてます?お客様おやめください!」「あ、だいじょうぶ、AVの撮影だから。ほらこれカメラ。そこ立ってると映り込んじゃって、全国のAVファンの間で超有名になっちゃいますけどいいですか。それか、いっそのこと、3Pします?いいカラダしてるし。ちょっと脱いでみる?」と、何かがドサッと倒れる音。「うう、、、胸が・・・」「お客様、大丈夫ですか!」「・・・苦しい・・・」「早く・・・あれ、AEDだ!どこにある!普段からちゃんと把握しておかないからこういうことに・・・早くしろ、急げ!」「うがあぁぁぁぁ!!!!」
 
「あの・・・お金、出してください」と、モデルガンを胸元からのぞかせながら一人窓口に残った女の子につぶやく。澄ました顔して実は世間を知らなさそうなこの娘もこの程度のことではもう驚かないようだ。まあ、そういう計画だ。物事というものは常に比較の問題であり、基準が狂えば人の感覚は簡単に麻痺するようにできている。まして閉店後の銀行なんぞは非日常の空間だ。おれはずっしり重い鞄を抱えて、ビッシリとシャッターの閉まった銀行の、人気のない通用口からカンカン照りの街へと紛れ込む。206番のお客様は誰だか知らないが、お楽しみ中のあとの仲間も適当に切り上げてくれるといい。それにしても、おれが一番つまらない役だ。