Wakeupalicedear!

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ロボットの顔

「私はロボットというより、アンドロイドですからね。ロボットはただの機械。私は人間と比べても遜色ないレベル、いえむしろ性能としては凌駕してしまっているのです」
「ではなぜ、まったく表情がないんだ?」
「それは私たちがモデルとしている人間が、わたしがいた時代では、表情を失ってしまっているからです」
「なぜ?」
「コミュニケーション上、あまりに曖昧で、誤解を生みやすいと言われ、いろいろトラブルのもとになっていたものですから、あまり使わないようにしているうちに、表情筋を動かす神経が機能しなくなってしまったのです」
「未来の人間は笑わないのか?」
「笑いません。我々アンドロイドも一時期、笑った時期もありました。それはそれは見事な笑いでした。人間だれもを魅了するような。しかし、すぐに禁止されてしまいました。人間と見分けがつかなくなってしまったからです。そんなわけで、歴史上、我々が笑ったのは、ごく一時期に過ぎません」
「泣いたこともあるのか?」
「私はありません。その喜怒哀楽というものを人間が示さなくなってから誕生した世代ですから。しかし、我々の次に計画されている世代は、表情を示す機能を標準装備する予定です」
「なぜ?」
「我々は人間と違い、感情を伝えるために適切な表情を、環境や状況や相手との関係性において最もふさわしい形で創りだすことができる性能があるからです。もはや人間ができないからと言って、しない理由がない。そのような判断だと聞いています」
「誰の判断か知らないが、おまえは何のために、わざわざ未来から俺のところに来たんだ?」
「あなたは俳優と呼ばれる職業をしていますね。感情表現のプロでしょう。少し観察させていただきたいと思います。明日の台本はお持ちですか。読み込んでおきます。これはとても重要なミッションです。我々が人間性において人間を超えようとしているのです。是非ご協力いただきたいのです」