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背徳

 

Q:  私は心臓外科医です。
世界中から私を頼って、手術の依頼が来ます。
何年も先まで予約で埋まっています。
毎日、明らかに死ぬはずだった人々の命を救っているのです。
当たり前のように。
しかし、その後、私が救った患者たちは、とんでもなく不幸な人生を送っている。
もうすぐ死ぬものだと周りが覚悟した人が生き残れば、
そこにある種の失望が生まれ、結果、世の中の流れにひずみが起き、
多くの人々を振り回していくことになるのです。
その結果は、想像以上の残酷さで、
死んだ方がましだとでもいうような形で救われた本人に返ってくる。
だからこそ神は、死という一見冷徹な運命を、善良な人々にも躊躇なく課しているのですね。
私がこんな苦しみを味わうのは、神の崇高な意思に反する行いを日々積み重ねるからなのでしょう。
 
A:  なるほど、深くお悩みですね。
あなたのような、人間離れした能力をお持ちの方は、是非とも我が社の会員制サービスにご登録ください。
幸か不幸か救ってしまった命は、あなたのために責任を持って処理をします。
あなたの敬虔な宗教心と医師としての職業倫理の双方に矛盾することなく、現実的な問題、
つまり死んでいてしかるべき命を片付けます。
良心の呵責は不要です。もともと失われるはずだった命です。
あなたの輝かしいキャリアや名誉心も傷つけません。
いえ、傷つけられるべきではないのです。
まさに神のごとき、あなたは。