Wakeupalicedear!

Shortest stories

ペースメーカー

 

彼とは同期だった。
「同期は蹴落とすものだよ」
さすがに先輩や上司からはそんなふうには教わらなかったが、
みんな心の底ではそう思っている。
職場では敬語で話す。
彼を除いては。
 
失敗を押し付けられた日には卑劣な上司を罵り合った。
難しい商談をまとめた日には二人きりでささやかな祝杯をあげた。
出世街道の先を越され、苦い思いもした。
同期の間の絶対的なマドンナを嫁に取られ、悔しい思いもした。
 
しかし、あいつがいたからこそ、明日に向かって、果てしない階段を一歩ずつ登ってこれた。
 
幹部候補生として育てられたとはいえ、キャリアの最後に、
あいつではなく私に社長の椅子が廻ってきたのは運が良かったとしかいいようがない。
 
周りにはそう謙遜しているが、私も自分の力で乗り越えたのだという自負は持っていた。
あいつが私の出世のためのペースメーカーとしてそもそも採用されたことを知るまでは。
あいつはといえば、突然、地方に出向になったまま、ずっと音信不通だ。