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Wakeupalicedear!

最近はほとんどドラマの感想なんだけど、ほんとは短い小説を書くためなんだけど。

一人幅の住宅

 

隙間です。
一人分の幅です。
それだけの家です。
両側に壁。
僕の家です。
ベッドに辿り着くまでに、
キッチンシンクを乗り越えて、
テレビもまたいで、
その前にウォーキングクローゼットを通り抜けて、
その前にバスタブを踏み越えて、
さらにその前に便器です。
何事もovercomeという建築思想です。
人生は障害物競走ですから。
ところで僕はずっとここに住んでいます。
いえ、違います。
この前、引っ越してきたばかりでした。
だから、ここで育った記憶はどこから来たのだろう。
誰のものだろう。
妹とずいぶん追いかけっこしたな。
一人分の幅しかないから、すぐに見つかりそうなものなのに。
見つからなかった。
妹はいつまでも見つからなかった。
どこに行ったのかな。
どこにも行っていないのかな。
まだここにいるのかな。
見つけてほしいのかな。
では、探してみようか、親愛なる妹よ。
一人分の幅のどこに家族が住めるのかはまるでわかりません。
どうでもいいや。
どうせ誰もいないのだから。
僕の他には。
初めに戻りましょう。
門扉を開けて入っていきます。
真っ白な丸い石が敷き詰めてあります。
二つとして同じものはないはずなのに、
一つとして違うものはない。
それは同じ意味において全く違うことなのだから。
だからまっすぐに歩いていきます。
ドアがあります。
ドアを開けます。
開けることの裏側は閉めることの表側であり、
ドアのあちら側とこちら側の世界に何も違いはないのだけれど、
こちら側が家の中です。
もう入っていますよ、あなたは。
目の前に階段が上っていきます。
一段ずつ、たぶん、上の方に。
もしかしたら下の方に。
あるいは上でもなく下でもないどこか近くの隙間へ入り込みます。
出てこられればいいですね。
それではいけないので、上の方に光があります。
だからのぼります。
のぼればのぼるほど、
またのぼる。
ようやく空に辿り着きました。
青く、広がっています。
見渡します。
あー青い。
どうせそんなものです感想なんて。
言葉にしたって何の意味がありましょう。
さてひとつ、大きな深呼吸をします。
この地球が、世界が、くるくる風を吹かせながら、
いつの間にかそこにあったはずのものはもうないし、
取り戻そうなんて意味のない言葉、大嫌い。
でもそろそろ降ります。
階段を下りると、ずーっとずーっとずーっと降りていくとそこは玄関です。
履き慣れすぎてすり減ってきちゃった靴を履いて外に出ます。
靴の擦り切れた数だけ自由を手に入れたんだと考えれば、
ろくでもない人生でもまあしょうがないかと思って。
あれ、そういえば靴をどこで脱いだっけな。