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Wakeupalicedear!

最近はほとんどドラマの感想なんだけど、ほんとは短い小説を書くためなんだけど。

これは演技です

私は癌だ。
家族は隠してるが、知っている。
「隠してるのではなく、言わないだけだ」
家族はそんなふうに自分たち自身に言い聞かせようとしているのだ。
「おじいちゃんはいろいろあった人生だから最後ぐらい・・・」
という思いも、わかる。
むしろ、有難いぐらいだ。
だから、私は全く知らないふりをした。
全ての会話、全ての表情、全ての視線、全ての溜息。
それら全てを、強固な意志と、揺るぎない意識の下に置き、完璧にコントロールした。
 
闘病は、幸か不幸か、10年続いた。
10年を秒に直すとどのくらいになるのだろう。
それだけの数えきれない瞬間に、私は常に演じているという意識を手放さなかった。
そして、ついに私の夢が叶ったのだ。
あの戦争が始まってしまい、断念するしかなかった。
いつのまにか年老いてしまい、もう現実になることはないと諦めた。
容赦ない現実に打ちのめされた人々を、幸せな嘘で包み込むことのできる、役者になるというあの夢を。
私の無垢な死に顔を見て、家族も安心したはずだ。
あるいは実際に幸せに死んだのだから、虚実を越えた迫真の演技というべきか。

 

役者としての私は、家族の心の中でいまも演技を続けている。
くたくたと無邪気に笑いながら。