Wakeupalicedear!

Shortest stories

2014-09-28から1日間の記事一覧

スクラッチしすぎに注意

人は話すとき頭の中でちっちゃいDJが何万個もあるターンテーブルのディスクを次から次へと廻しながら文章を紡いでいる。スクラッチしすぎると、どもるので、注意しよう。

いつまでも覚えていたい夏

去年の夏はすごく暑くて、 彼が溶けちゃった。 どろどろになっちゃった。 そのうち寒くなってきたら また固まるかなって思って待ってたけど いつまで待っても固まんないから どうしようかな。 もう冬だよ。 そろそろ固まらないと、 もう固まらないよ。 永遠…

ただいま

帰ってきて、 二階に上がり、 自分の部屋のドアを開いて 僕は気づいた。 まだ、何も変わっていない。 「いつかあの子が帰ってくるかもしれないから」と 母さんがそのままにしているんだ。 見てはいけないものを見てしまった。 そんな気がして、僕は慌ててド…

あきらめるのはまだ早い

首を吊って死ぬことにした。 天井からぶら下がったら、 天井が抜けて、 なんだこれじゃ死ねないじゃんと思ったら、 落ちた天井に押しつぶされて やっぱり死ねた。

海と空

ある日 海が雲になって、 空に向かって雨をふらせた。 何年も、何十年も降りつづけて、 ある日 雨は止んだ。 かつて海だったところは澄み切った青空になり、 かつて空だったところは見渡すかぎりの海になった。 僕は海辺で逆立ちをした。

生きてみたい

「ねえパパ、生きるってどんな感じ?」 「さあ、どんな感じだろうか」 「パパ、知らないの?」 「パパだって生きてみないとわかんないさ」 「パパは生きたことないの?」 「ないよ」 「そうなんんだ・・・僕は生きることの意味を知りたいんだけどな」 「そん…

一皮むける

夏休みの終わりごろ、 子供たちが宿題の仕上げに追われていたとき、 地上にバリバリバリという音が響き渡った。 「パパ!地球が脱皮してるよ!」

一日限定

ある男が生まれてすぐに意識不明に陥り、 病院のベッドに寝かされたまま成長し、 時が過ぎ、 老人になり、 ある日、ふと目を開けた。 ずっと天井を見つめていた。 誰も気づかなかった。 翌日、死んだ。 そこで僕は考えるのだ。 彼は目を覚ますべきだったのか…

両親の祈り

両親は生まれたばかりの娘の幸せを祈った。 「辛い思いをすることなく一生過ごせますように」 娘は翌日死んだ。

リバーシブル

「背中にファスナーがあるからちょっとおろしてくれる?」 「いいよ・・・あれ、これどこまでいくの?止まんないよ・・・なんか出てきたぞ」 「わたし、リバーシブルなの。気分次第でこっちも使ってね」

外国語をかじるということ

大学で外国語をかじった。 まずは実践だ。外国に出かけてみた。 街に出て、喧嘩に巻き込まれた。 人が死んでた。 警察は「お前がやったんだろ?」と言った。 否定形はまだ習っていない。 「私が、やる」 「やる?」 過去形は習った。 「私が、やった」 「ち…

優先席のご利用につきまして

「高齢化社会の進展と医療の進歩により、 シニア層の気力・体力が加速度的に伸長する一方、 若者世代の貧困による栄養不足、 過剰労働による健康阻害あるいは運動不足による足腰の弱化により、 今後、優先席は若者向けとさせていただきます。 シニア層の方々…

落語の天才

「いやあ、あいつはホントに天才だよな。 あれだけの人物を完璧に演じ分けるんだからな」 「いや、それは、天才というより・・・」 「10人?15人?おれなんか途中から頭の中がこんがらがってきたぞ」 「いや、ある意味、こんがらがってるんですがね」 「…

僕の一生の仕事

「おかしいですね・・・息子さんにはどこにも異常は見受けられないんですが」 「やっぱりそうですか。どこへ連れて行ってもそのように・・・」 「もうどのくらいこんなふうに反応のない状態なんですか?」 「・・・22、3年ぐらいでしょうか」 母さんそり…

夢のまた夢

Q&A

「先生、夜、怖いんです」 「どうしましたか?」 「変な夢の見かたをしちゃうんです」 「どんな?」 「夢から醒めたと思ったらまた夢だったってパターンの映画よく見ますよね?あれです」 「あれですか」 「それが延々続くんです」 「まあ確かに悪夢的ではあ…

画期的な胃がんの治療法

画期的ながんの治療法が開発されました。 それはがん細胞に侵された臓器をタイムスリップさせるというものです。 例えば胃がんの場合、胃だけをがんになる1年前にタイムスリップさせれば、 健康な胃を取り戻すことができるのです。 註:レントゲンを撮って…

あなたも私も世界一

私共の業務はですねー、世界の誰もが、いやつまり世界には何十億人とか言うすごい数の人間がいるじゃないですかそういう人の誰もがですねー、つまり何十億の一に過ぎない人たちのひとりひとりが実は世界一なんだっていうことを証明したいっていうことなんで…

A Perfect Circle

一匹の猿がすくっと立った。 そして、360°回転した。 尻尾が大地に円を描いた。 猿はその円を見つめた。 そして人となった。 一人の男が大理石を削り、 人間の姿を作り出していた。 究極の姿を求めていくにつれて 形はますます失われ、 円球となった。 男…

株式会社シェアリング

人は、人生の中で、予期せぬ不幸に遭遇します。 そんな時、支えになってくれるのは、親しい友人でも、恋人でもありません。 経験したもの同士でないと、共有できない痛みがあるのです。 あなたの経験した不幸を入力してください。できるだけ詳しく。 それだ…

まばたきの間に

まばたきとは、目に見えている世界を一度リセットする行為です。しないに越したことはありませんが、まず我慢できる人はいませんので、したいときは我慢せずにしましょう。まばたきしている間に、世界は一旦終わって、もう一度ビッグバンからやりなおしてい…

命がけのキス

地球と火星は恋人同士だった。 地球が流行病に罹り、飢えと渇きにあえいだとき、 火星は地球に優しく口づけし、その豊かな水を地球に注ぎ込んだ。 火星は海を失い、そのわずかな痕跡を、 乾いた大地の上に、傷跡のように残した。 それは命がけのキスだったの…

感情コレクション

彼女は人間ではなかった。 どちらかというと機械だった。 しかし、その区別にはほとんど意味がなかった。 彼女は究極に発達した生命科学の成果だからだ。 しかし彼女には感情がなかった。 生命維持にそんなものが必要な理由は、 いまだ解明されていなかった…

無表情な少女

少女は最近ずっと無表情だ。 遠くを見つめたまま全く動かない。 両親は心配して医者にも連れて行ったが、 何の効果もない。 眠ることもない。 彼女はそれどころではないのだ。 負けたら人類が滅ぼされるのだ。 彼女は悪魔とにらめっこをしているのだ。

自画像

男は画家になりたかった。 自画像を描いていた。 どうしても似ない。 これは自分ではない。 彼は悪魔と契約を交わした。 人生の半分を渡そう。 その代り、自分そのものの自画像を描けるようにしてくれ。 彼は、自分のありのままの自画像が描けるようになった…

シースルー着用法

テロは増えるわ麻薬中毒者は増える一方だわ、どうやって取り締まればいいもんだか悩んでいたある国が、かつてない法律を施行することにした。 衣服の中に武器やクスリを隠し持つことができなくするために、全身シースルー服の着用を義務づけるというもの。 …

クリーニング屋、始めました

クリーニング屋といっても服とか布団とかそういうものじゃないです。そういうものが汚れるのはあなた自身が汚れているからです。だからあなた自身を洗います。でもエステじゃありません。あなたの人生をクリーニングします。マネーロンダリングに近いもので…

最後の手紙

残念だ。こんな形でお前たちとの幸せな人生を終えるなんて。 いま必死に書いている。言葉にならない。 時間がない。愛している。心から。 激しく降下しているから、きたない字だ。読めるか? それにしても、脳裏に浮かぶのは幸せな思い出ばかりだ。 ここにす…

地球温暖化

「チンできたわよー!冷めないうちに早く食べちゃってー!」 「はーい!」

あの感覚生理学の先生、変態よね

人間の愛を五感から見ていくと、まず鼻。異性のフェロモンを嗅ぎ取ります。嗅覚の愛です。 まだ目には見えません。距離も遠い。一方的な情報のやり取りです。 次に目。異性とじっと見つめ合います。視覚の愛です。ここで視覚的に確認をします。双方向性が高…

すれ違うとは重なり合うこと

同じマンション、同じ配置の、違う階で、同じ場所に座り、同じ場所で寝ていたし、同じ駅の、違う階のプラットホームを平行に歩いていたり、会社も同じビルで、フロアが違うだけで、同じ場所に席があり、席も全く同じデザインだったり、ほとんど気付かないほ…